Nicole Riddley
ペニー
18歳になる日は、初めて番(つが)いを感知する能力が目覚める日だ。
だから、この年の誕生日は大事件だった。盛大なパーティーを計画したのも、そのためだ。 最高の夜にするつもりだった。
18歳の誕生日に番いを見つけられないと、陰でバカにされるのだ。
私は、ときめいたことのあるイケメン男子を全員パーティーに招待した。まあ、つまりは、うちの学校のシングルは全員ということだ。
男好きと呼ばれてもいい。だって、その中の一人が番いになるかもしれないんだから。どうせやるなら徹底的に。私は完璧主義の女オオカミなのだ。
ゲストを迎えるために玄関の脇で待っていると、通りに車が停まるのが見えた。スーツにネクタイを決めたハンサムな男子たちが車から下りてきて、挨拶を交わしている。よだれが出そうだ。
女友達のジェネシスに会うのも楽しみだった。ジェネシスはライカンで、誘拐されていて(話せば長くなる)、ちょうど今夜、家に帰ってきたところだった。
最初のゲストたちが階段を上がってくるのと同時に、私の内に棲むオオカミ、ジュノが激しく飛び跳ね始めた。番いの存在を感じているのかもしれない。そうだったらいい。
私は背中でこっそりと指をクロスさせて願った。
3時間後、興奮した気持ちはすっかり消えていた。パーティーに来たシングルのオスたち全員と握手を交わしたけれど、誰とも、わずかな火花すら感じられなかった。
番いを見つけることができないまま夜が終わるのではないかと心配になってくる。そうなったら、屈辱的だ。
明日、学校で、指をさされ、陰口を叩かれるかも。
私は身震いした。そんなこと、耐えられない。
会場を見渡せば、よだれが出そうなほどかっこいい男子があちこちにいる。踊り、酒を飲み、女の子たちといちゃついている。
でも、その中に私の番いはいないのだ。(何なのよ…!)
その時、ノックが聞こえた。玄関を開けると、
「ジェネシス!」親友の姿が見えるなり、私は思い切り彼女を抱きしめた。
「ペニー…誕生日おめでとう、大好きよ」ジェネシスは私の耳元で囁いて、もっと強く私を抱きしめ返した。
「もう会えないかと思った。二度とあんなことしないで」私は叱る。
「私だってしたくない」と、言い終わるか終わらないかのうちに、ジェネシスは共通の友人、リースに引っ張られていった。
その様子を見送って前を向いた私は、背筋を伸ばし、息を呑んだ。昔の映画に出てくる女優みたいに、あからさまに。
ジェネシスの後ろ、玄関先に立っていたのは、これまでに見たことがないほど美しい男だった。
彼は明らかにライカンだ。とてもハンサムで、殺傷力が高い。
ふさふさとしたブロンドの髪はあまりにも色が淡くて、ほとんど真っ白に見える。ぴったりと後ろに流したスタイルが完璧に似合っていた。
花崗岩でかたどったような、彫りの深い顔立ち。
しみ一つない色白の肌に、赤い唇が美しく際立つ。しっかりとした上唇は完璧で、ふっくらとしたセクシーな下唇は、全体のタフな雰囲気とは対照的だ。
でも、一番惹かれたのは、彼の瞳だった。
アイスブルーの瞳は、どこか暗く、危険な雰囲気を漂わせている。
そして、その目は私だけに向けられていた。まるでこの部屋に私一人しかいないとでもいうように、私を見つめていた。
私の内側で、すべての警鐘が鳴り出す。
でも同時に、ジュノはすっかり魅入られて興奮し、激しく駆け回っている。この男はただのライカンではないと私は悟った。
ジェネシスが訳知り顔で、私と彼の顔を見比べる。そして、ようやく、言った。
「ペニー、紹介するわ。彼はダリウス・イヴァノヴィッチ・リコフよ」
***
ジェネシスが私たちを紹介し続ける間も、ダリウス・イヴァノヴィッチ・リコフは私を見つめるのをやめない。私も目を逸らすことができない。
ダリウスは王室諜報機関の司令官なのだと、ジェネシスが言った。
ジェネシスの誘拐事件を捜査するために、2人の幹部を連れてここに来たという。誘拐は大事件だった。広く名を知られる冷酷な反乱軍が関わっていたからだ。
そこで、私は他の友人たちも来ていたことに気がついた。コンスタンティンにラザロ、カスピアン。全員がものすごくハンサムなライカンのオスだった。
「ビーニー・ペニー! 僕にハグは?」いたずらっ子のような大きな笑みを浮かべたカスピアンが、私を引き寄せてハグをする。
(ビーニー・ペニー…?)
カスピアンの正式な名前はカスピアン王子。皇太子であり、コンスタンティンの従兄弟だ。 今もシングルで、うっとりするほどのイケメンでもある。
こんなおバカさんじゃなければ、好きになっていたかもしれない。まあ、実を言うと、ちょっと好きになりかけたんだけど…彼がしゃべるのを聞くまでは。
カスピアンの肩越しに、アイスブルーの目をした猛烈にセクシーなライカンの方をちらりと見ると、彼はハンサムな顔を思い切りしかめて私たちを睨みつけていた。
周りで起こっていることにまったく集中できない。みんなが話をしているのに、彼の一挙手一投足と私に向けられる視線で頭がいっぱいだ。
アイスブルーの瞳が私をとらえるたびに、体全体がざわめく。彼は何度も私を見る。私の耳には、彼が話す深みのあるセクシーな声しか入ってこない。ロシア語訛りにとろけそうになる。
心臓が罠にかかった小鳥のように忙しなくはためき、彼と目が合うたびに、胃が痛いほど締めつけられる。
その夜の間中、私の目は彼を追い続けた。磁石みたいに彼に引き付けられて、抗えない。まるで、彼が私の凧糸を引いているかのように。
目が離せないのは、彼も同じなようだった。私が彼を見るたびに、彼も私を見ていたのだから。部屋のあちらとこちらで目が合って、逸らせなくなる。魔法を解くのはいつも彼からだった。
彼は無理矢理に目を逸らし、でも最後には耐え切れず、不本意そうにまた私の方に視線を戻すのだ。まるで自分ではどうすることもできないとでもいうように。
「ペルセポネ・アスペン・ルイス、私の言ったこと、聞いてた?」ジェネシスが尋ねる。彼女の質問に答えなかったのは、今夜、これで3度目だ。
(もちろん、聞いてるわけないわ)
「もちろん、聞いてるわよ、ジェネシス」答えながら、頬が熱くなるのを感じる。(ああ、もう、何なのよ! 私、赤面なんて絶対しないのに!)
思わずダリウスの方をちらりと見ると、彼の唇にはうっすらと笑みが浮かんでいる。少しばかり楽しげで、満足そうな瞳。
ああ、恥ずかし過ぎる! 自分の存在が私に与えている影響を、彼はしっかりと自覚しているに違いない。
「彼、セクシーよね」リースが耳元で囁く。
「誰のこと?」私は気づかないふりをする。
「一人しかいないよね」と、リースはいたずらっぽく笑う。「彼、ドラコ・マルフォイに似てない? …もっとがっしりして大柄で、セクシーだけど」
「もういいから」彼の目がこちらに向いているのに気づいて、私はリースを黙らせた。
離れたところから、そっとダリウスを盗み見る。
20代前半…せいぜい22歳くらいだろう。屈強だけれど、洗練されている。無骨でいて、美しい。世慣れていて、教養も深い。
それほど多くを兼ね備えて見えるのは、本当は22歳より歳上だからなのだと思う。ジェネシスの番いのコンスタンティンは18歳くらいに見えるけれど、実際は300年以上生きている。
ダリウスは、それよりもう少し歳上だろう。
人間に比べると、私たち人狼はかなりゆっくり歳をとる。ライカンは、人狼よりもさらに歳をとるのが遅い。つまり、彼らはもっと長生きなのだ。
ありがたいことに、人間であれ、人狼であれ、ライカンと一度番いとして結ばれた者はライカンに変わる。
人狼とライカンがどう交われるのか不思議に思われるかもしれない。私がライカンについて知っていることを、少しお話ししよう。
ライカンには、私たち普通の人狼のように月の女神に選ばれた番いがいるわけじゃない。彼らは自分で番いを選ぶことができる。相手は同じライカンでもいいし、人狼でも、あるいは人間でもいい。
番いが見つからなかったとしても、それぞれのライカンには「運命の人」がいる。誰よりも強く惹かれる相手だ。
この相手は「エラスタイ」と呼ばれる。
エラスタイへの欲望は、基本的な生存本能に支配されている。そのライカンの個体にとって、あらゆる面で最も相性のいい相手なのだという。
惹かれる力が強いほど、交わった時の絆も強くなる。ライカンは、見つけたエラスタイにすでに別の番いがいたり、結婚していたとしても、つながりを諦めないことで知られている。
クレイジーだよね?
とはいえ、マーキングされてエラスタイではない他のライカンと番いとなるライカンもいる。繋がりはそこまで強くないけれど。
ライカンがエラスタイと番いとなった時の絆は、人狼同士の番いの絆より強いこともあるそうだ。
親友のジェネシスとライカンの番い、コンスタンティンを見ていると、それが実感できる。 ジェネシスは確実にコンスタンティンのエラスタイだ。二人の間の愛と理解の深さは、他のカップルとは比べものにならない。
ライカンに選ばれた番いは、人狼であれ、人間であれ、交わった後はライカンに変身する。
人間としての外見も、番いであるライカンと釣り合うように変化する。
人間の姿をしている時のライカンは、私たち人狼よりも魅力的だ。そして、人狼はほとんどの人間よりも、かなり魅力的だと言われている。
つまり、ライカンは驚くほどセクシーなのだ。
ジェネシスも、もともととても綺麗だったのだけれど、今では他のライカンと同じようにあり得ないほどの美人になった。
パーティーの翌日、ジェネシスから一体何が起こっていたのかと問いつめられた。ジェネシスは、私がダリウス・リコフのエラスタイだと主張する。コンスタンティンに初めて出会った時、同じように感じたからだそうだ。
私はとても混乱している。番いに出会うのは楽しみにしていたけれど、ライカンのエラスタイになるとは思っていなかった。
番いに出会ったら、どんなふうに感じるんだろう、と、いつも思っていた。
私に一言も言わずにパーティーを去っていくダリウスの姿を見て、私はようやく、その感じを知ったのだった。
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