Feeling the Burn ―ハンナの欲情― 1巻 - 表紙

Feeling the Burn ―ハンナの欲情― 1巻

EL Koslo

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Chapter
15
Age Rating
18+

Summary

ハンナは物心ついたときからずっと太っていて、そのことを周りにからかわれたりいじめられたりした思い出から、すっかり引っ込み思案で自信がない女性になってしまった。自分ではもう痩せることも諦めていたが、医者からの警告でそうも言ってられなくなった。フィットネスジムを勧められるが、これまでもジムで散々馬鹿にされてきた恐怖から、親友のパーカーを誘って一緒に行くことに。美男美女の多いジムでますます不安になるハンナだが、ジムの人たちはその不安を消し去るほどやらた優しくて甘い言葉までかけてくるが―

対象年齢:18歳以上

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ピーナッツバターカッププロジェクト

ハンナ

「このテスト結果を見ると、あなたの日常生活の改善を考えないといけないわね。」向かい側に座っているアイザックス医師は、顔を上げる前にファイルに目を通し、ため息をついた。

「ジムには通っています。」私のこの体型を見ると、ほとんどの人は、私がジムに通っているとは思わないだろう。でも、ランニングマシンでウォーキングをしたり、軽いウェイトマシンを使っている。あまり効果は感じられないけれど、それでも通っている。

「ジムに通っているのは知っているわ。それに、活動的になるのはとてもいいことよ。でもね、全身へのアプローチの仕方を考え始めないといけないわね。」中年のその医師は、少し下がった眼鏡のフレームの上から、何かを考えているような視線を向けた。

「アイザックス先生、わかっています。私は、太っています。昔からこの体型なんです。ダイエットをしたことはあるけれど、効果はありませんでした。」

覚えている限り、この体型のことは医療関係者や家族の間でずっと持ち出されていた。

『ハンってちょっと太ってるよね。。。』いつもこの繰り返し。

巨漢ではないが、細かったことは一度もなかった、それに、細くなったことなんて一度もなかった。

「栄養士に相談したほうがいいわ。それに、週に数回トレッドミルで歩いているだけではなく、もう少し効果的なことをしましょう。」

『効果的な』この言葉に少し引いたが、それにより変われることはわかっている。何か別の方法を試す必要がある。

「そんなことをしても、何も変わりません。だって、変わったことがないんです。でも、私は気にしていません。」自分の運命を受け入れると言ったのは、少し感情的だったかもしれない。 ー 今まで、皆を喜ばせようと頑張りすぎただけ。

「あなたはそれでいいかもしれないけれど、40歳になる前に心臓発作や脳卒中が起きたら元の生活に戻るのはさらに大変なの。」アイザックス医師は、眉をひそめながらそう言った。

今日のアイザックス医師は、言葉を和らげることはなかったけれど、少し大袈裟に言っているように感じられる。

「私は、心臓発作なんて起こしません。」まるで、健康問題は避けられないものではない。と自分を説得しているようで、私の声は少し震えていた。

「コレステロール値が上昇しているの。ストレステストの結果に、血栓がある可能性も出てるし、体脂肪率は病的な肥満のレベルなの。」

いいわ。不健康ラインに少し近づき過ぎただけかもしれない。

「スーパーモデルになれって言っているわけではないの。ただ、もう少し自分の健康状態を考えたほうがいいって言っているのよ。」アイザックス医師の声からは、彼女は心底心配しているように聞こえたが、私はまだ20代後半であり、そんなことを言われても深刻になれない。

「わかりました。で、何をしたらいいんですか?」私の問いに、医師は声を出して笑った。

「あなたに必要なプログラムプランを立ててくれるトレーナーのリストがあるわ。」そう言うと、彼女はコンピューターに何かを打ち込んだ。

「いいえ。トレーナーは必要ありません。だって、いつもケトダイエットとかアトキンスダイエットの事を教えたがるんです。」

もう二度と、『フィットネスのプロ』が、私の生活に口を出してくるようなことにはなりたくない。ピーナッツバターカップのチョコレートが大好き。だから何よ?

「グループで教えるトレーナーもいるわよ。あなたに合うかどうか、そこから初めてみてもいいわね。」私を見つめる三日月眉の医師の目から、私にノーと言わせるつもりはないらしいことを感じ取れる。

「グループ内で軽蔑されるのは嫌です。クラスの中で私1人だけが太っていて、他のみんなからジロジロみられるのは嫌だわ。」そう訴えている声が震え、私は深呼吸をした。

「最初に、高負荷なインターバルトレーニングクラスをいくつか勧めるわ。自分のペースで、ゆっくりとやれるから。」

簡単に言うけれど、そんなことはない。まるで、拷問だ。高負荷ななんとかって、拷問としか聞こえない。

「これ、本当に必要なんですか?」医師は考えを変えないだろうとわかっていたが、聞いてみた。

「正直に言うわね、ハンナ。私は、あなたの体脂肪率が、この先、深刻な健康問題を引き起こすことを心配しているの。」

ああ。。縁起が悪い。アイザックス医師は、私の抗議にとどめを刺した。

「看護師に、フィットネススタジオの連絡先を渡すように言っておくから、行ってみて。」

「ありがとうございます。」と言い、私は溜め息をついた。この女医師は医師としての仕事をしているだけ。わかっている。。。でも、私がそれを気に入る必要はない。

体を動かすと、丸出しのお尻の下に敷かれている白い紙のカサカサと鳴る音が、小さな部屋に響きわたる。私の、明らかに大きすぎる丸出しのお尻。

「経過観察の予約を3ヶ月後に入れておいてね。経過を見ておきたいわ。最終ゴールは、可能であれば薬を飲まなくてもよくなることね。」

そう言うと医師は立ち上がり、検査室から出て行く前に頷き、そして、ドアを閉めた。

私は、レギンスを履き、数多くの罪を隠すためのふわりとしたトップを着た。医師に会いに来るために、着飾る必要はないと思っていた。

「コン、コン。」閉まっているドアの反対側から、元気そうな声が響いた。

「どうぞ。」膝の上の紙を弄びながら、私は溜め息をついた。

「ハンナ?」背が高く、細身でダークブラウンの髪の女性が、タブレットを片手に顔を覗かせる。

「私です。」と答えたが、冷ややかな口調でなかったことを祈った。その看護師はスーパーモデルのような容姿なのだ。

「えーっと。。。あなたに合いそうなフィットネススタジオのコーチの連絡先をいくつか渡すわね。個人的には、ジョーダンに相談に乗ってもらうのがいいと思うわ。」

看護師はそう言うと、私に連絡先の入った封筒を押しつけてウィンクをした。

「えーっと。。。リストの中に、女性のコーチはいます?」私は、唇を噛み締めながら聞いた。男性のトレーナーは、私を脅した。

私ったら、何を言ったんだろう。。。フィットネストレーナーは、皆、私を脅かしたけれど、シックスパックのトレーナーや汗かきのイケメンは、私がいかに不健康なのかを見せつけ、不快にさせる。

ケリー看護師は頷いて、リストの真ん中あたりを指差した。

「いるわよ。でも、おそらくジョーダンが1番いいと思うわ。私の主人の肩の手術後、リハビリセンターから出てきた時にとても力になってくれたの。」

ジョーダンを尊敬しているような声だった。「ジョーダンはね、皆それぞれ生活があるってことを解っていて、継続できるようなフィットネスプランを立てる力になってくれるの。それに、彼が魅力的な人だってことに損はしないわ。もちろん、それがジョーダンに依頼する理由ではないけれど、彼はね、ゼウスだって棒人間みたいにするんだから。」

胃が痛み始め、私は無表情な笑顔を見せた。

私の腕立て伏せの姿勢を整えるため、顔のない、筋肉質なイケメンの手が私の贅肉を上を動き回る想像をしてみたが、看護師に気づかれないよう、密かに身震いをした。

私の不安感を感じ取った看護師が微笑む。「あなたが心を開いてくれて嬉しいわ。」

私はそう思わない。でも、チャレンジしてみないといけないことは解っている。

少し太っているだけだった10代の頃の私は、太りすぎな大人になった。この体重が、次第に深刻な問題になるまで私は気づきもしなかった。

アイザックス医師の今の課題は、私に主導権をとらせることだ。

「やってみたいと思っています。でも、もしその『コーチ』たちが私の太ももをからかったりしたら、とんでもない文句を聞くことになりますよ。」私は、そうはっきりと言った。

脅すかのような口調だった。冗談ではない。看護師のケリーもそうだ。コーチの一人でも意味ありげな言葉を発した瞬間、この馬鹿げたフィットネススタジオに二度と行くことはないだろう。

「ジョーダンは絶対、そんなことは言わないわよ。あなたに努力をさせたり、やりたくない運動をさせることはあっても、体重のことであなたに恥をかかせることは絶対にないわ。」ケリーは私の手を優しく叩いて安心させた。

「はい、これ。。。4クラス分のフリーパスよ。取り敢えず、数クラス行ってみて。それから、ジョーダンの心配をすればいいわ。」そう言いながらケリーは私の手に紙のフリーパスを置いた。

それだったらできるわ。存在感を出さないのは得意よ。

「数ヶ月後の経過観察でここへ来たときに、どれほどの効果があったか見るのを楽しみにしているわ。」ケリーは励ますように微笑んだ。

「プレッシャーをかけないでくださいね。でしょ?」ケリーが立ち上がり部屋を出る時、私は彼女に笑顔を返した。

「大丈夫よ。」

彼女の言葉が真実だと信じたわけではない。でも、努力はした。

「ありがとうございます。」私は、小声で答えたが、今日のことに確信が持てたわけではない。だが、薬棚を処方された薬で埋め尽くすのが嫌ならば、何かを変えなければならない。

自己負担額の支払いを済ませ、駐車場に降りるエレベーターへ向う。今日の午後は休みを取ってあるので、このジムに行かない理由がない。ちくしょう。

ジムは20分程の距離のショッピングモール内にある。

エンジンを切ると車内に数分座り、自分を奮い立たせようとしていた。

そして、助手席のジムバッグを引っ掴んだ。いつも車内に置いてある。家の中にこの悪魔のようなものを入れたくないからだ。

正面玄関へ向かい、駐車場を歩いている私の体は震えていた。このような場所は、私を神経質にさせる。

このジムは、私が行ったことのあるような大規模なジムではない。大きなジムでは存在感を消せる。隅にあるマシンの影に隠れていれば、誰も私のことは気にしない。

私のランニングマシンの傾斜を上げたパーソナルトレーナーは、私の歩くスピードは5km/h以上行くことはないし、傾斜角度もいつも同じなのを知っており、私を置き去りにし、とっくに居なくなっている。自分ができることは知っている。ただ、歩いたという事実を作るためにジムに行き、家に帰るだけだ。

でも、ここは違う。

建物内に入った瞬間、汗の匂い、ランニングマシンとバーベルのぶつかり合う音に驚かされた。

ここはとても混み合っている。フリーウェイトの周辺にいる筋肉馬鹿たちは、私がドアを開けるとこちらをチラリとみたが、すぐに目を逸らした。

私が彼らの興味を惹かないのは確か。

ここにいる人たち全員の体型がとても良いことに気がついた、私の顔は赤くなった。私はこの中で1番太い、それもかなり太いのだ。

『どうしてこんな大勢いるのよ?』受付に引きずられるように近づきながらそう思った。水曜日の午後3時よ。あの人たち、働いていないの?

「いらっしゃいませ」体にピタリとフィットした黒のフィットネスウェアを着て、高い位置のポニーテールのしなやかなブロンドのゴージャスな女性だ。

「あ、あの。。。はい。私。。。ハンナと言います。運動を始めたくて。。。」そんな訳のわからない事を言いながら、ここに来た理由を説明しようとしている。

受付カウンターの向こう側にいるその女性は驚いた様子で、靴の小さな汚れを見るように私を観察している。

「メンバーですか?」冷ややかな声だ。

私は神経質そうに首を振り、さらに疑うような表情をした、女性の顔を見た。

「で。。。でも。」緊張で吃ってしまう。「無料クラスを4回受けられるクーポンを持っています。」

ポケットに手を入れると、看護師に貰ったチラシを探した。

指に光沢紙の感触があり、ポケットから引き出したが、縫い目に引っかかり気がついたら床に落としていた。

「ちくしょう。。。」チラシを拾おうと、屈みながら呟いた。

その時、履き込まれたグレーのテニスシューズが私の近くに現れたので、後ろにいる人の邪魔をしないよう紙を拾おうとした。

「ここだよ。。。手伝うよ。」手が届かず苦労していた紙を、その男性がかがみ込みさっと取ると、耳元でその太い声が聞こえ、私の手にそっと置いた。「これ、君のだよね。」

「あの。。。」慌てて背筋を伸ばすと自分が赤面しているのを感じ、手の中でチラシが音を立てた。なんてこと。"私はここで何をしているの!"と叫びたくなるようなこの素敵な男性が、無料クラスのチラシを拾った人かもしれない。

その人のウエストは細く、大きな力こぶがタイトな袖からはみ出ており、ネイビーブルーのコンプレッションシャツ、まばらに生えている体毛へと続く濃い色のトレーニングショーツ、くっきりとしたふくらはぎと、さっき目にしたグレーのテニスシューズの背の高い男性。

長時間のきつい運動を終えたばかりのように、赤みがかったブラウンの髪が乱れている。

鼻筋と頬にはそばかすがあり、魅力的な筋肉のついた前腕にも見かけられる。

「ありがとう。」何時間もトレーニングをしていたような強い体臭を放っている完璧な見本のようなこの男性に、私の体はとても敏感になっている。

うっとりさせる緑の瞳が携帯電話から目を上げると私と目が合い、メッセージを打ち込み始める前に、優しい笑顔を見せた。

受付の女性にチラシを渡すと同時に私の顔はさらに赤くなった。こんな状況に慣れていないのだ。

もしここで会っていなかったら、この男性は2度と私に目を向けることはないだろう。誰もこんなでぶっちょな女の子のことを魅力的だなんて思わない。誰もが、単なるピーナッツバターカップの消費機械としか思わない。

「J、どうしたの?」受付の中にいる女性は色目を使い、私の存在を素通りして後ろにいるあの美しい男性に目を向けた。

「後でいいよ。」Jはえくぼのある笑顔でそう言った。「この可愛らしい女の子の受付を先にしてよ。」

彼が、『可愛らしい女の子』と言った時、誰のことを言っているんだろうと思わず周りを見廻した。私ではないはずだ。

しかし、振り返り彼を見ると、彼は満面の笑顔と緑の瞳で真っ直ぐ私の目を見つめていた。

その瞬間、私の顔が火照りさらに赤くなるのを感じた。

男性はまだ微笑んでいる。

私は、受付の女性に向かい自信を持って言葉を発する前に勇気を振り絞った。「コーチジョーダンとのフルトレーニングに申し込みます。」

『ピーナッツバターカッププロジェクトの始まりよ。』

やれることはやったわ。

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