Danni D
アリエル
私はずたずたになったカートの体に背を向けて、階段を上り始めた。
一歩進むごとに、抑えきれない怒りがこみ上げてくる。
階段の頂上にあるドアを開けるだけでは済まず……。
……蝶番が壊れた。
私は誰もいないひっそりした廊下を歩き、閉じたドアの前に着いた。
ドアの向こう側ではパーティ音楽が鳴り響き、数人の男たち――少なくとも5人――が、酔って踊り、騒いでいるのが聞こえる。
私はドアを蹴り破って唸り声を上げ、激しい怒りで野性に返る。いつでも殺せる。
男たちは呆然として私を見上げた。私は1人のハンターから別のハンターへと視線を動かす。
「誰が先?」私は唸りながら鉤爪を伸ばした。
ハンターの1人がホルスターから銃を抜いたが、遅すぎた。私は男の手から銃を叩き落として男に飛びかかり、鉤爪で肉を引き裂き始めた。
背中に2人の男が飛び乗ってきたが、振り向きざまに2人の首を切り裂いた。2人は喉を押さえたが、指の間から血が溢れ出し、地面に崩れ落ちた。
4人目のハンターはブーツからナイフを取り出し、叫びながら私に突進してきた。ナイフが私の顔に刺さり、刃が皮膚を破って小さな切り傷を作った。
血が涙のしずくのように顔を伝う。ナイフで切られた部分に触れたときには、傷口はもう塞がっていた。
男は驚愕で目を見開いた。「ど、どうなってんだ?」
私は男の手からナイフをもぎ取り、その胸に突き刺した。男は床に倒れたが、目はまだ飛び出しそうに大きく開いている。
立ち止まって一息つきたかったが、体がそうさせてくれなかった。純粋なアドレナリン……あるいはほかの何かに突き動かされていて、自分で制御できる気がしないのだ。
出口を探そうと振り返ると、若いハンターが銃を構えていた。私を狙いながらも、その手は震えている。
(しまった。5人だ。5人いたのを忘れてた)
バン!
銀の弾丸が太ももを引き裂くのを感じたが、弾丸は貫通せず、脚に突き刺さったままだ。
一瞬のためらいもなく、私は若いハンターに襲いかかって首をへし折った。しかし、立ち上がるときに、焼けるような痛みが全身を駆け巡る。
(もうっ、この治癒能力はどうなってるの? 人生最悪の痛みだわ!)
自分が引き起こした殺戮の現場を見回しながら、女神はどう思うだろうかと考えずにはいられかった。女神が言ったのは逃げろということで、建物の中の全員を殺せということではなかった。
(だから今、治癒能力が働かないの?)
私は近くにあったランタンを手に取り、足を引きずりながらハッチに続く梯子に近づき、それを登って、暗いトンネルを抜けた。ランタンを掲げると、そこは古い納屋のようだった。
(やつら、ずっと地下の秘密施設に隠れていたのか。どうりで誰にも見つけてもらえなかったわけだ……)
巨大な納屋のドアを抜けて、この地獄から永遠に立ち去ろうとしたとき、隅に灯油の容器がいくつかあるのを見つけた。
この場所を再び悪のために使わせるわけにはいかない……。
私は灯油を納屋中に撒き散らした。そこにランタンを投げつけると、瞬く間に炎が上がった。
火が燃え広がるにつれて、私は勝ち誇った気分になったが、火が隅の防水シートに覆われた何か――ピックアップトラック――に向かっていくのを見るやいなや、その気持ちは恐怖に変わった。
(最悪っ)
ドカーン!
私は吹き飛ばされ、バラバラになった納屋の木のドアから後ろ向きに飛ばされた。
背中から地面に落ちて、焼けるような痛みが全身を襲う。夜空にきらめく星が、ぼんやりとした黒い斑点に変わり始める。
辺りに煙が広がり、油の焼ける匂いに感覚を奪われ、私は意識が遠のいていくのを感じた。
アレックス
森を見下ろす古い給水塔の上でビールを飲むと、ひんやりとした夜の空気がこのうえなく心地いい。
厳密に言えば、ここは群れの境界の外だが、政治、群れの仕事、それにプレッシャーなど、すべてから逃れるには最高の場所だ。
ふと右隣を見ると、ドミニク――ドム――はすでに4杯のビールを飲み干し、5杯目に取り掛かっている。
(くそっ、負けてられない)
「いつからそんな下戸になったんだ?」ドムはからかうように言った。
「おいおい、ビール腹になりかけのおまえとは違うんだよ。おまえはその腹のせいでまだ伴侶がいないじゃないか」俺は言い返して、ドムの脇腹をつついた。「おまえの運命の伴侶は、その腹を見て逃げ出したんだ」
「これは親父体型って言うんだよ、アレックス。すごく流行ってる。狼女に大人気なんだぞ」ドムは答えてニヤリと笑った。
ドムは子狼の頃からの親友だが、彼をからかって楽しむのと同じくらい、彼を束縛しているように思えてならない。
「いつでも自由に伴侶を探しに行っていいんだぞ。砦を守るのは俺1人で大丈夫なんだから」俺は真剣な口調で言う。「俺のためにここに留まるなよ」
「アレックス、もう何度も言ったけど、俺の答えは変わらない。どこにも行くつもりはない」
「ほら、俺はちょっとつらい状況だったが、間違いなくもう大丈夫だ」俺は説得力を持たせようと努めながら言った。
「悲しい時期は過ぎた。6カ月経ったんだ。オリヴィアが……彼女が……」喉がカラカラになり、声が途切れる。
彼女の名前を声に出すだけで、心臓に銀のレンガを落とされたような気分になる。
「本当に、大丈夫」俺は言って、顔を背けて込み上げてきた涙を拭った。
「本当に説得力があるな」ドミニクは俺の肩に手を置き、ため息をついた。
「アレックス、君は運命の伴侶を失ったんだ。突然だったし、さよならも言えなかった。すぐに立ち直れなくても、それでいいんだ。レースじゃないんだから」
彼の言う通りだ。オリヴィアの死で俺の中にぽっかり穴が開いた。体の芯が引きちぎられたようで、今は埋めようのない暗い空洞がある。
どんなに癒そうとも、その傷はふさがらない。
「ドム、俺のそばにいようとしてくれるのはありがたいが……それでおまえが自分を犠牲にするのは――」"
ドカーン!
ビールが零れた。大爆発に、すでにガタガタだった給水塔が揺れる。
遠くの森から黒煙がもうもうと上り、火の粉が空を赤く染めた。
俺は振り返ってドムを見た。ドムも俺と同じように驚いている。
「行ってみる」俺は唐突に言った。
ビールのせいなのか、オリヴィアの話のせいなのか、なぜかそうしなければならない気がした。
「アレックス、正気か? 群れ境のずっと向こうだぞ。俺が君にそんなことをさせるわけにはいかない」ドムが俺の腕を掴む。
「俺が君にさせるわけにはいかない?」この辺りで命令を下すのは誰なのか、彼にはっきりと思い知らせるような口調で訊いた。
ドムは唸り声を出して服従した。「くそっ、俺はなんでそんな気を起こしたんだ。わかったよ、君がどうしても愚か者になるって言うなら、俺も一緒に行く」
「ダメだ、援軍を呼んで、戦士大隊を連れてこい。誰かが群れに警告する必要がある」
ドムはまた唸り、手すりを飛び越えて塔の側面にぶら下がる。「わかったよ、バカな真似だけはするな」ドムはそう言い残して、梢の間に姿を消した。
***
爆発のあった空き地に着いたときには、息が切れそうになっていた。焼け焦げた匂いを追うのは簡単だが、それ以外の匂いもした……間違いなく狼の。
俺は空き地に接する茂みに身をかがめて、はぐれ者の気配をとらえようとしたが、この狼からははぐれ者の匂いはしなかった。
ブラックベリーに蜂蜜を混ぜたような、いい匂いだ。
煙が立ち込める中、誰かが地面に倒れているのが見えた。
隠れていた場所を離れて近づき、眼前の光景に目を見開く……。
血と灰にまみれた若い女性が、傷と痣だらけでじっと横たわっている。一筋の月明かりが煙を切り裂きて差し込み、照らし出された彼女は堕天使のようだ。
近づくにつれて、1つの考えだけが頭をよぎる……。
この美しい狼女は誰なんだ?
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